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2005年8月 6日 (土)

千の風になって(追悼)

その一報は、昨日の午後、仕事中にあった。

「信じられないと思うけど、Aさんの奥さんがさっき亡くなったの。」「えっ!」ついこの間まで、子供会の花火見物やお神輿で明るい姿を見せていたのに。持病はあると言っていたが、お元気そうだったのに・・・。

去年の春、同じ町内に引っ越してきた。勤務医のご主人と3人のお子さんの5人家族。子供会の役員の一人である私は、入会のお願いと会費徴収という役目のため、お宅を訪れた。彼女は、じつに気さくに、協力的に事を運んでくれた。役員として最初の仕事で緊張していた私は、すっと肩の荷が下りた覚えがある。

それ以来、子供会の行事には、ほとんど参加してくれた。自分が来れない時は、ご主人を出して。何かする時は、「私がしょうか?」と言ってくれた。最近も、急な連絡事項があり、連絡網を回すよりも、もう一人の役員と手分けをして電話したほうが確実だろう、ということで電話をしていて、彼女にかけたとき、「あと、誰かに連絡しておく?」と気を利かせてくれたし、私が「今回は私達だけで連絡するからいいよ」と言うと、「ご苦労様!」と本当に気持ちをこめてねぎらってくれた。

皆(私を含めて)、余分な仕事はいやだと言う人が多い中、この人は違うなと思っていた。

別の友達が教えてくれた。彼女は今年の4月から、末の息子さんが入っている小学生のサッカーチームの会長になって、市内の80余名のサッカー少年と保護者のまとめ役をしていたのだそうだ。「ふー、大変大変」と言いながらも、司令塔として活躍していたのだそうだ。

どうしてそんなに一生懸命できたのだろうか?

今日、夕方からお通夜があった。100名近くの参列者。椅子が足りず、立って、法要を聞いた。ご夫婦ともこちらの出身ではないのに、この参列者の数は、彼女の活動の幅を反映しているのか。私もそうだが、親子連れが目立つ。

焼香が進む中、ハンカチで始終目を押さえていた娘さん2人に加え、とうとうご主人や一番下の息子さんの顔がゆがんで真っ赤になってきた。遺族席に一礼して戻る時、これを見たら、私ももうこらえきれなくなって、鼻の奥がツーンと熱くなった。目からあふれるものもなかなか止まりそうにない。

喪主であるご主人の挨拶。気丈に話し始めた。

―突然のことだったので、家族もまだとまどっている。参列された皆さんもさぞ驚かれたことと思う。

―妻のことをお話したい。妻は末の息子が2歳になった10年前、SLE(全身性エリテマトーデス)を発症し、以来、病とともに生きることとなった。不治の病のため、本人も家族も、ある程度、「死」は覚悟していたつもりであったが、こんなに早く急に訪れるとは思っていなかった。

 ここ2~3日体調を崩していたが、いつも通り朝食を作って、私を送り出してくれた。「いってきます」「いってらっしゃい」が最後の会話になってしまった。

 私を送り出したあと、少し横になって、娘に買い物を頼んだ。娘が帰ってきた時、母親の異変に気付き、救急車を呼んだが、すでに手足は冷たくなっていたようだ。病院で手当ての甲斐なく帰らぬ人となってしまった。くも膜下に出血があったときいたが、持病の影響もあったのだろう。

―妻は何事にも一生懸命だった。伴侶として、母親として、本当に良くやってくれた。それに引き換え、私は医者でありながら、妻に何もしてあげられなかった。何もしてあげられず、申し訳ない。

そこまで話すと、男泣きに泣かれた。

会場はすすり泣きの渦になった。

お付き合いは1年余り。そんなに深く付き合ったわけではない彼女だったが、今までにこんなに悲しくなるお通夜には出たことがない。

私の脳裏に『a thousand winds』―原作者不明の英語詩、それを日本語詩にした新井満の『千の風になって』が浮かんだ。

      私のお墓の前で  泣かないでください

     そこに私はいません 眠ってなんかいません

         千の風に  千の風になって

      あの大きな空を  ふきわたっています

        秋には光になって 畑にふりそそぐ

      冬はダイヤのように  きらめく雪になる

      朝は鳥になって  あなたを目覚めさせる

        夜は星になって あなたを見守る

      私のお墓の前で  泣かないでください

     そこに私はいません  死んでなんかいません 

          千の風に  千の風になって

       あの大きな空を  ふきわたっています

          千の風に  千の風になって

       あの大きな空を  ふきわたっています

       あの大きな空を  ふきわたっています                                     

                                                        

43歳で急逝されたAさん。私より、お若かったのですね。

SLEの症状のほか、ステロイドの副作用で、ずいぶん辛い思いをされたに違いないでしょうに、いつも笑顔で、私達に病気のことを微塵も感じさせませんでした。

その強さと明るさ、前向きな姿勢を見習って、これから私も生きていきたいと思います。

『千の風になって』は、旅立っていった人からのメッセージです。Aさんなら、やっぱり、「みんな、泣かないで」と私達残された者にメッセージを送ってくださるのではないでしょうか。

お名前の中に『千』の字がはいっていたAさん。どうか『千の風』になって、ご家族と、私達を見守っていて下さい。

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