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2006年2月20日 (月)

博士の愛した数式

仕事が休みの平日の午前中、貸し切り状態で、映画を見てきました。

オープニングの音楽は、この作品に抱いていたイメージとは違って、重いというか大仰というか(加古隆って、こういう音楽なの?)「あれ?」と、首を傾げてしまいましたが、博士役の寺尾聰と家政婦役の深津絵里は、まさに適役でした。原作のイメージにぴったりのキャストだと思いました。(寺尾聰は原作の設定より若いかもしれませんが。)好みです。

また、映像はやっぱりいいですね。背景となる自然がとても美しくなごむのですが、文章にすると何行にもなるところが、一目瞭然でわかる。多分信州の景色のようだけれど、綺麗だなあと感動できるわけです。
そして、未亡人の美意識や、博士に来訪者がないことなども、博士の家の食器棚の中に、おそらく未亡人が設えたであろうロイヤルコペンハーゲンのティーセットが最少限並んでいるショットで、表現できる。
ほかにも、ルート(家政婦の息子)の野球の試合の整列で、背番号が『√』というのは一目見ただけで、可笑しいし、チームメイトの背番号が、往年の阪神の選手の背番号というのも、阪神ファンなら、にやっとしてしまうのでしょうね。

数学の話は、活字で見ている分には、わからなかったら何度も読み返せるからいいけれど、映画だと分からないまま通り過ぎてしまわないかなと、懸念がありましたが、ルートが、成長して数学の先生になって、博士との思い出を語りながら数学の授業をするという設定で、わかりやすくなっていました。フリップを使って説明していて、よくまとまっていました。こんな数学の授業なら受けてみたいと思わせるほどでした。

成長した ルートは吉岡秀隆が演じていますが、吉岡君は小泉堯史監督のお気に入りなのかもしれませんね。調べてみると、これまでの小泉監督作品「雨あがる」「阿弥陀堂だより」にも出ているし、黒澤明監督の「八月の狂詩曲」「まあだだよ」にも助監督と出演者という関係で一緒に仕事をしています。(それを言えば、寺尾聰も「八月の・・」以外は同じく出演していますけれど・・・。)

映画は原作よりエピソードがコンパクトです。そのため、博士が学生時代野球の選手だった、という設定が必要だったのでしょう。ルートのけがや、野球観戦も、博士へのプレゼントの件もみんな、ルートの野球チームの練習や、試合に関する事でまとまってしまいます。
(私としては、原作のプロ野球観戦で、博士が、一番かわいい売り子からしか買わなかったというのが面白かったし、博士へのプレゼントで、江夏のプレミアムカードを探すというエピソードも好きなのですが・・・。また、博士は野球の「数字」にはびっくりするほど詳しいし、よく覚えているのに、常識的なことを何も知らず、ルートにいちいち聞いていたという件も、数字が唯一の友達だった博士らしいエピソードだと思っていましたが。)

一番の違いは、未亡人(義姉)と博士の関係を明らさまにしたことと、薪能がでてくるところでしょうか。私は、それとなく親密な関係があったことをにおわすという原作の表現の方が、直接的でない分、よりロマンティックで好みでした。

ただ、浅丘ルリ子扮する未亡人が、記憶力を失う前の博士からの、2人の間の子を失った悲しみの手紙を、憂いを含んだ眼差しで読み返している時、紙面に

          e =-1

というオイラーの公式が書き記されていました。この「-1」は、2人の間に宿りながらも生まれ得なかった子どものことを表しているのかも知れないと思いました。もしそうだとしたら、この原作にはない新しい解釈で、”博士の愛した数式”であるオイラーの等式

          e + 1 = 0    

が、ただ純粋に美しく奇跡的な数字の関係を表している、というだけではなく、博士、家政婦、ルート、未亡人の関係をもあらわすものとして理解できる気がします。「マイナス」の関係ではなくて、「0に抱き留められる」関係だということで。

「能」はよくわかりません。
『江口』という演目で、西行法師と歌を詠み交わした遊女、江口の君の幽霊が、旅の僧の回向で普賢菩薩に変じて、西方浄土へ消え去るというあらすじなのだそうですが・・・。

この世に執着していた霊魂が、悟りを開いて菩薩になった?ということで、博士との「秘密」に執着していた未亡人が、心を開いて母屋との間の木戸を開けた?ということでしょうか?

小泉監督は脚本も書いているので、聞いてみたいところです。

監督は茶目っ気もあるようですね。
ルートの誕生日が、原作と違う 「5月18日」になっていました。どうしてだろう、何か意味があるのかなと思っていましたが、ふと、寺尾聰のことを調べたら、なんと、彼の誕生日でした。

また、サプライズも用意したようで・・・。
私は気付きませんでした。薪能を見ている観客の一人に小川洋子さんがエキストラ出演している事を。「能って何いってるんだかわからないな」とか博士が未亡人の手を握るシーンを見て、「『永遠に愛するN』と認識して握っているんだろうか」とか余分な事を考えていたので、見逃してしまいました。残念!

ハリウッド映画のような華やかさはありませんし、ハンカチがなくては見られないというような映画でもありませんが、エンディング・ロールを見終わったときに、目尻が濡れているのに気付きました。暖かい気持ちになれる映画です。

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